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高速道路の安全運転から考える、快適な登山のペース配分

秋の五ヶ瀬ハイランドスキー場

登山をしていると、息が切れて思わず足を止めて休んでしまうことがある。

息が整ってきたらまた歩き出し、次第にまた息が切れて休む。歩いては休み、歩いては休みと繰り返す。

そして、登り切ったときにはすっかり疲れ果てている。

この登り方は、自分自身の心肺や筋肉にとって非常にリスクが大きく、安全な登山とは程遠い。

ペース配分に気を付けるだけで、そういった疲労とは無縁の、快適登山を楽しめるようになる。 しかも、頑張ってハイペースで登ったときと大して時間も変わらないのだ。

このことを、例え話と実際に行った検証結果を交えて説明してみる。

高速道路の運転で例える

登山の安全なペース配分は、高速道路を車で走る際のスピードで説明するとわかりやすい。 以下のパターンをそれぞれ考えてみる。

  1. 80km/h で走行車線をずっと走り続ける

  2. ときどき前の車を追い越すために追越車線を使ったりしながら、100km/h で走行する

時速80kmと時速100kmで1時間走行した場合、せいぜい15分程度の差にしかならない

2 つのパターンを比べてみると、後者は前者に対して運転の疲労が大きい。 (これは乗っている車にもよるが、ジムニーで 100km/h なんかで走るとかなり疲れる)

しかも、1 時間走行する場合を考えると、両者はせいぜい 15 分の差でしかない。 サービスエリアでソフトクリームを食べてくつろいでいるドライバーの様子を見る限り、この 15 分の差はまったくもって重要ではないだろう。 つまり、速く走るために神経を尖らせたり必要以上のハンドル操作を行なうというのは、ほとんど余計なコストとみなせるわけだ。

登山のような有酸素運動においては心拍数が重要

話を登山に戻そう。

高速道路の例えで言いたかったことは「急いでも大した時間の差にはならない上に無駄なリスクを伴う」ということである。 車の運転の場合は、速度という定量的な指標があった。では、登山ではどうしたらいいか。 これは有酸素運動すべてに当てはまるが、登山では心拍数を意識することで運動負荷をコントロールできる。

以下は、実際に私が同じコースを 2 回歩いたデータである。

心拍数を上げすぎないように意識すると、ペースは多少落ちるが、時間は大して変わらない。

まず、心拍数を特に意識せずに登った。(左) このとき、冒頭に書いたように「息が上がっては休み、また歩き出しては息が上がって休む」という登り方になった。 全体を通してかなりキツかった。

次に、心拍数を 160 以下になるように意識して登った。(右) すると、途中で息が上がって立ち止まるということは 1 回もなく、頂上までノンストップで歩くことができた。 頂上に到着したときの疲労感も、心拍数を意識せずにオーバーペースになったときよりもはるかに余裕がある。

心拍数は腕時計で計測。心拍数が上がってきたと思ったら画面を確認してペースを調整した

平均心拍数でいうと 15 程度の差。しかし、この差がかなり体感として大きかった。

しかも、運動時間に注目すると、たったの 10 分しか差がない。疲労感は 2 倍くらい違ったのに。

山に登るとき、少しでも早く進みたいと思ってペースを上げてしまいがちだろう。 そのペースは必ず最後までもたないため、途中でバテて立ち止まることが増えてしまい、結果として休まずゆっくり登った場合との時間差が埋まっていく。

こうしたことから、無理のないペースを維持して登ることは、オーバーペースで休憩を挟みながら登る場合よりも大幅に体力を温存できるうえに、余計な休憩を必要としないため時間はそれほど大きな差にはならないということがわかる。

実際に同じルートを使って検証したことで、身をもってこのことを感じることができた。 今後、自分を痛めつける目的の負荷トレーニングでない限り、心拍数 160 以下を維持して登りたいと思う。

ちなみに、この快適な心拍数は個人差が大きいため、これを実践する際はあなた自身にとっての「立ち止まることなく歩き続けられる心拍数」を見つけてほしい。

また、そのときの体調などにもよって適正ペースは変動するため、心拍数のみを見ていても不十分なケースもある。主観的運動強度や登高速度といった指標も同時に見ることで、適切なペース配分ができるようになるが、今回はこのへんにしておこう。